車の買い替えや購入を検討しているときは、ついつい予算よりグレードの高い車が欲しくなるものです。ハイグレードの車が比較的安い値段で売られているのを見つけた場合、そこに「金融車」と書かれているのを目にしたことはないでしょうか。
金融車とは、いったいどんな車なのでしょうか。なぜ、リーズナブルな価格で販売されているのでしょうか。
金融車の基本から、車検や自動車税、買取や販売の方法を説明します。
・金融車とは
まず、金融車とはどのような車なのでしょうか。
金融車とは簡単に言うと、「様々な理由により名義の変更ができない車」ということになります。この金融車には、大きく分けると三つの分類があります。
1.債務者から債権者に担保として提供されて、担保実行された車
2.ローンの途中で売却された車
3.様々な事情があって名義変更ができない車
これらの条件が付いた車が「金融車」と呼ばれます。金融車は場合によっては「金融物」「金融流れ」と呼ばれることもあります。
1の場合、多くの金融車は法人の自動車として購入されたものが多いのが特徴です。というのも、法人が金融機関などに融資を申し込む場合、担保を差し出す必要があります。高額な融資を受ける場合や、大きな銀行に融資を申し込む場合であれば、会社の土地建物、工場などが担保となりますが、そういった担保物件を持たない中小・零細企業や、それほど多額でなくても、当面の運転資金のための少額の融資が欲しいという場合、車を法人名義で所有していると、その車を担保に融資を受けることが可能になります。
また、融資を受ける相手が小規模の金融業者の場合には、土地建物などをさばくほどの資金力がないため、返済に滞りが生まれた場合、すぐに売却できる車のほうが担保として便利だという事情もあります。
そして法人からの融資の返済がストップした場合、担保権が実行され、法人名義の車は金融車となります。
実は金融車として販売されている車は高級車の割合が非常に多いのですが、これも法人所有だったというのが大きな理由です。
法人は売り上げなどから利益を得た場合、現金で持っていると多額の法人税がかかります。そのため、経費として計上するためにできるだけ高級な車を購入することが少なくありません。
そうしておけば、売り上げから車の代金を経費として差し引くことができるからです。
2のケースは、車の所有権が信販会社などのローン会社に留保されているという場合です。
これは最初に車を買った人がローンで購入した場合に発生するものです。
ローンで車を購入した場合、自動車検査証上、「使用者」は購入した人の名前が記載されていますが、「所有者」はまだ信販会社などのローン会社になっています。
この状態は、購入者がローンを完済するまで続き、ローンをすべて完済すると、所有権の留保も解除され、「所有者」も「使用者」も、車を購入した人の名義になります。
しかし、もし車の「使用者」である最初に購入した人が、金融機関などに融資をお願いしたいと思った場合に、ローンが残った車を担保にすることがあります。このような場合、1と同様に融資されたお金が返済されれば再び同じ車に乗り続けることができますが、もし返済が滞った場合、車はローンが残った状態のまま売却され、「金融車」として市場に出回ります。
上記のようなケースではなく、ローンを組んで車を購入した人が車に飽きた、乗っていたけれど気に入らなかった、別の車が欲しくなったという場合、ローンが残ったままの状態で車を売却する場合も珍しくありません。
また、ローンを組んでいた人が月々の支払いが不可能になった場合、車は信販会社などのローン会社によって引き上げられ、別の人に販売されることもあります。
これらの場合も金融車と似た事情といえますが、これらのケースでは名義の変更が可能なため、金融車ではなく通常の中古車と同じ扱いになります。
自動車が金融車となる3つめのケースは「様々な事情があって名義変更ができない車」です。これはその金融車によって事情が異なりますが、譲渡証明書や委任状といった名義変更に必要な書類が揃わない、元の持ち主が車を放棄していると言った場合があります。これらの車は「わけあり車」と呼ばれて金融車と区別されることもあります。
・金融車の価格
金融車は様々な事情がある車なので、通常の中古車よりもかなりの低価格での買取・販売が行われます。
一般的には、金融車の相場は中古車の約半分と言われています。
しかし、車種や車の状態などによって価格は異なります。たとえばレクサスやベンツといった人気の車種では、中古車市場の6~7割の価格となりますが、あまり人気のない車種の場合、中古車の3割程度で販売されることも珍しくありません。
また、車検の残り期間や走行距離、購入されたのが最近といった場合には、販売価格は上昇します。
反対に、金融車になってからの期間が長い、車検が切れている、車検証の名義人とまったく連絡が取れない、または名義人が不明と言った場合、価格は下落します。
通常の中古車であれば、車の年式や走行距離、内装や外装の状態などがポイントになりますが、金融車の場合中古車とは違ったポイントに注意しなければならないので、金融車の購入を考えている人は注意したほうがいいでしょう。
・金融車はリスクが高い?
金融車は名義変更のできない車なので、どうしてもリスクがつきものです。
中でも気になるのが、金融車が違法かどうかということでしょう。
どれだけ購入価格を抑えたとしても、乗っているだけで違法性を問われる車を使用するのは、あまりにもリスクが高すぎます。
金融車に乗ることは違法なのでしょうか?
実は金融車に乗ることは完全に違法ではありません。しかし、同時に合法と言い切ることができない事情もあります。
というのも、車を購入したことのある人なら知っていることですが、自動車購入の場合には、購入から15日以内に管轄陸運局に届け出、車庫証明を警察署に届け出なければいけません。しかし、金融車は名義変更ができない車。そのため、この届け出を行わないままで車を乗り続けなければいけません。
また、通常であれば担保として提供された車は、譲渡証明書や委任状などが付属されますが、これらは所有権を持たない使用者としての譲渡書類となるため、これがあったとしてもこれが自分の車だと主張する上ではほとんど意味がありません。
しかし、実際にはもし検問などで警察のチェックを受けたとしても、「まだ名義変更をしていない」と説明すれば処罰を受けることはほとんどありません。また、売買契約などが行われた証拠があれば、自分の車だと主張することも可能です。
ただし、金融車には他のリスクもあります。それは、金融車が盗難届を出された場合です。
金融車は車の使用者から同意を得て転売された自動車なので、通常では盗難届を出されることはありません。
しかし、「担保として車を預けていたが、融資されたお金を返済したところ、車が転売されたあとだった」、「車を売った債務者が支払いについて弁護士を介入させた」など、トラブルが発生した場合、不満を持った側が盗難届を提出する可能性もあります。
しかし、この場合でも金融車を購入した人が窃盗で逮捕されるということはほとんどありません。
というのも、金融車であっても販売会社と取引したという契約書や領収書があれば、売買の実態があったと判断されるため、窃盗罪は適用されないということになります。
といっても、警察に事情聴取を受けたり、場合によっては自動車を返還しなければならなかったりといった事態に発展することもあります。
自動車を返還した場合、金融車の購入代金に関しての保証については、販売会社などとやり取りを行うことになります。
・金融車に乗るデメリットとは
金融車は完全に違法とは言えない存在ですが、法律的な点以外にもデメリットもあります。
まず金融車に乗る一番のデメリットは「強制抹消される危険がある」ということです。強制抹消とは、自動車の登録を強制的に抹消するということで、これは車を所有しているローン会社やディーラーがローン代金が支払われないときの債権の保全として行う手段です。
強制抹消が行われると、きちんと車検を通っていたとしても、法的には登録が抹消されている、無届の車が走行しているのと同じ状態となるため、もし交通違反で捕まった場合、車検切れと同等の減点となってしまいます。そうなると、人によっては免停になってしまうということも考えられます。
また、金融車の場合、ローン会社やディーラーに所有権が残っているため、正規ディーラーのメンテナンスを受けられないという場合もあります。
もちろん、民間の整備工場であればメンテナンスに問題はありませんが、車の機能や搭載されているコンピューターが高度化されていることもあり、通常の整備工場では手に負えないということも考えられます。金融車の購入を考えている場合には、近くの整備工場で整備を受け入れてもらえるかも調べておいたほうがいいかもしれません。
さらに金融車を購入するデメリットとしては、「任意保険に入れないことがある」といったことも考えなければいけません。任意保険に入れない状態で事故を起こした場合、取り返しのつかないことになるため、他の保険などを活用して、リスクヘッジを行うことが必要になります。
このように金融車を購入するデメリットは少なくありませんが、意外と見落とされがちなのは、「信用が下がる」可能性があるということです。
金融車は高級車が多いということはすでに説明した通りですが、様々な事情があって流れてきた車なので、地元のナンバーをつけることができません。もちろん、住んでいる地方のナンバーを手に入れられれば問題はありませんが、なかなか都合のいい車を見つけるのは難しいものです。
その場合、他の地方のナンバーを付けた高級車を使用するということになりますが、そういった状態を隣近所の人から見ると、少し不信感を抱くことにもなりかねません。
また、金融車のイメージは決していいものばかりではないため「なにか悪いことをしているのでは」「暴力団とつながっているのでは」などとうわさされ、最悪の場合には通報されるということにもなりかねません。
また、走行中も、警察に目を付けられがちなので、たびたび車を止められ、免許を車検証の提示を求められ、そのたびに記載されている氏名の違いについて説明しなければならないなど、面倒なことが発生してしまいます。
・もし交通違反をしたらどうなる?
通常の自動車であれば、交通違反を犯した場合、現行犯で切符を切る以外にも、オービス等であれば後日違反の通知が行われます。
それでは、名義が自分のものではない金融車の場合はどうなるのでしょうか。
金融車に乗っていると、違反の支払いを行わなくてもいいと思っている人も少なくありませんが、実はそうではありません。
交通違反を放置した場合、車検を通せなくなると言ったことも考えられます。
さらに金融車を販売した企業によっては、支払いの請求を無視し続けると、多額の違約金を請求されるといったケースもあります。
また、これらの違反が累積していると、金融車を売りたいと思ったときに、価格が非常に下がるといったトラブルが発生することもあります。
これだけでなく、悪質な業者の場合には、前のオーナーが違反の累積をしているのを知りながら販売することもあり、その場合には、多額の罰金だけでなく、警察への出頭が必要になります。
金融車を購入するときには、価格だけでなく、違反履歴があるかどうか、その責任はどうなるのかを明確にしておく必要があります。
・金融車の車検
金融車を購入するとき、気になるのが車検です。短期間だけしか乗らないと言った場合は別として、長く乗りたいと言う場合や、車検切れ間近の金融車を購入した場合、どうしても車検に出すことが必要です。
それでは金融車を購入した場合でも車検に出すことができるのでしょうか。
簡単に言えば、金融車であっても車を車検に出すことは可能です。
車検に必要なのは、車検証や自動車税納税証明書、自賠責保険証、重量税などですが、これらがきちんとそろっていれば、車検を受けることができます。
ただし、逆に言えばこれらの書類が揃っていない場合、車検に通ることは非常に難しいといえるでしょう。
そのため、金融車の購入に際しては、これらの書類が揃っているかしっかり確認することが必要です。
また、車検についてはもうひとつ注意するポイントがあります。
それは金融車の販売方法。金融車を専門に取り扱っている販売会社の場合、客には車だけを手渡し、車検証や自賠責保険などを会社で管理することがあります。
知っての通り、車検証不携帯の場合、法律では50万円以下の罰金という処罰の対象になります。車検証を持っていないと、車検切れに気づかないといったことも怒る可能性があるため、金融車に乗るときには、コピーを渡してもらえるのかといった点にも注意しましょう。
・金融車の自動車税
金融車の購入で気になるのが自動車税です。金融車は自分の名義に変更することができないため、自動車税も支払うことが難しいと思っている人もいるかもしれません。
しかし、自動車税は第三者による支払いも可能です。陸運局で納付書を頼めば、簡単に納付を行うことができます。ただし、その際はナンバーに書かれている陸運局でなければ納付ができません。
そのため、遠方のナンバーである場合、陸運局に連絡して、納付書を郵送してもらうように頼むことが必要になります。
・金融車の買取
金融車はリーズナブルな価格でハイグレードな車を購入することができるため、できるだけ予算を安く抑えたいと言う人には人気を集めています。
さらに、金融車を扱っている業者の多くは、値引き交渉に応じてもらえる会社も少なくありません。
それだけでなく、金融車の場合、税金や名義変更手数料などの諸経費も必要ないため、総額で考えるとかなり低い価格で自動車を手に入れることができます。特に法人の名義だった車の場合には、しっかりとメンテナンスされている場合が多く、通常の中古車よりも状態のいい車を手に入れることができます。
ただし、金融車の買取には注意すべきポイントがいくつかあります。
まずもっとも重要なポイントは、どの業者から金融車を購入するかという点です。
現在では金融車は様々な業者によって販売されています。業者によっては、車検を引き受けてくれたり、任意保険にも加入手続きを行ってくれたりといった、サービスに力を入れているところもあります。
また、金融車購入で気を付けたいのは、購入後のトラブルです。もし前に乗っていた人が交通違反を犯して罰金を支払っていないと言った場合、金融車を購入した人が違反金を支払わなければならないといった事態が発生しますが、違反金の滞納がないかどうかを事前に調べてくれるといったサービスを行っている業者もあります。
また、現在では業者だけでなく、インターネットン掲示板や個人での売買を行っているところもありますが、できればこれは避けたほうがいいでしょう。
もしローンを組んで車を購入したものの、支払いができなくなった、資金難になったなど場合、差し押さえられてしまうのであれば自分で車を処分して現金に変えてしまおうとしての売買を行うのですが、そうした個人出品の場合、販売後にローンが完済されず、信販会社などが盗難届け出を出す、強制抹消するといったトラブルに発展することもあります。
さらに個人での販売は、もともと詐欺目的という場合も考えられます。
問い合わせるとすでに予約が入っていると言われ、手付金を払わされるといったケース、手付を入れたとたんに連絡が取れなくなるケース、代金を支払ったとたんに車もろとも消えてしまうなど、様々な場合があります。
そのため、金融車を購入する際には、信頼できる業者かどうかをまず確かめることが必要になります。
金融車の購入で気を付けたいもうひとつのポイントが、「税止め」です。
「税止め」とは、金融車の所有者が自動車の支払いを止めてしまうこと。先ほど、第三者であっても自動車税の支払いはできるということは説明した通りですが、この納税は自動車の所有者だけがストップできるのです。
このように税止めが行われてしまうと、税金が納められないということになり、車検が通らなくなってしまいます。
なぜこのような税止めが起きるのかというと、その金融車の前の持ち主が「リース会社」だった場合です。リース会社を利用していた企業が、倒産や破産など、支払いができなくなり、しかも担保としてその車を差し出していた場合、リース会社によって「税止め」が行われることがあります。
元の所有者がリース会社の場合、税止めが行われることはそれほど珍しくありません。そのため、金融車を購入する際には、元の所有者がリース会社だったかどうかを確認することが必要になります。
・金融車の販売
金融車を購入したいという人もいれば、一度購入した金融車を販売したいと考える人もあります。
金融車に関しては、購入と同じように販売の際も注意するべきポイントがあります。
金融車を業者や個人に売却するときに重要なのは、やはり業者選びです。金融車は一度販売してしまうと関係が切れてしまう中古車とは異なり、販売したあとや、別の人が購入したあとも関係が続く車だと考える必要があります。
そのとき、トラブルになることも考えられますので、金融車の販売を行うときには、販売後にトラブルが起きたときも、販売した会社がサポートをしてくれるかどうかが重要になります。
買取業者の中には、丁寧なサポートを売りにしている会社もあるため、買取の価格だけでなく、どの程度アフターフォローをしてくれるのかといったことにも注意を向けることが必要です。また、悪質な業者になると、買取をして転売しているのにその代金を払わないといったところもあるため、業者選びには注意が必要になります。
このとき、相手の業者が丁寧かどうかを判断するポイントは「販売実績があるか」「書類に対する取扱いが正しいかどうか」という2点があげられます。
金融車はその性質上、怪しい人間が売買に絡むことがあり、「買取業者」とうたっていても店舗を持たないといったことも多くあるため、商談を行うときには、相手の会社が実態のあるものかどうか、これまでどれだけの販売実績があるかを確かめたほうがいいでしょう。
また、金融車を売却するときには、車検証やリサイクル券が必要になりますが、業者によってはこれらの書類を確認しないこともあります。特に車検証の扱いは、転売後のトラブルに関わる上で非常に重要になります。そのため、きちんと書類を確認しているかどうか、受け取りの書類を手渡してくれるかといったポイントに注意する必要があります。
また、最近ではインターネットの掲示板やオークションを通じて個人間で金融車の売買が行われることもあります。
これらの取引は面倒が少ない、手数料が不要といったメリットもありますが、場合によってはトラブルに発展する可能性もあります。
できれば個人間の取引は避けたほうが無難でしょう。
どうしてもネットでの取引を行いたいと言う場合には、相手の本人確認をしっかり行うこと、契約書を作成することの2点を抑えておけばトラブルに巻き込まれにくくなると言われています。
ただし、契約書の作成には手間がかかるため、やはり金融車の販売は専門の信頼できる企業を利用するのがベストだと言えそうです。
まとめ
金融車はリスクもある反面、価格や車種などの点では非常に魅力のある存在です。
購入したいと思ったときは、目先の値段にまどわされず、自分で情報を収集して、正しい取引を行うことが重要になると言えるでしょう。